難しすぎてブログネタにはちょっと…wパート1

【急速に失われる地球上の生物多様性

 生物多様性を理解する上で、「種」は最も基本的な単位です。地球上の生物は、およそ40億年の進化の歴史の中でさまざまな環境に適応してきました。進化の結果として、未知の生物も含めると、現在3,000万種とも推定される数多くの生物が存在しています。

 そのうち、私たちの知っている種の数は約175万種であり、全体のほんのわずかにすぎません。生命の誕生以降、私たちを取り巻く地球の生態系は、地球上で生物が活動を続けてきた長い歴史の上に成立しているものです。一度失ってしまえば、その回復には気の遠くなる時間が必要になることは想像に難くありません。生物の生存に不可欠な酸素は植物によってつくられていること、穀物や野菜、果物といった農作物は野生の植物を改良したものであり、生物多様性があってこそ生みだされていること、生物の種が生き残るためには、気候の変化や病気の蔓延などが原因で絶滅しないように、さまざまな環境変化に適応できる遺伝的多様性が必要であることなどからも生物多様性が私たちの生存に不可欠であることが分かります。

 過去に地球上で起きた生物の大量絶滅は5回あったといわれていますが、これらの自然状態での絶滅は数万年〜数十万年の時間がかかっており、平均すると一年間に0.001種程度であったと考えられています。一方で、人間活動によって引き起こされている現在の生物の絶滅は、過去とは桁違いの速さで進んでいることが問題です。1975年以降は、一年間に4万種程度が絶滅しているといわれ、実際、人間は、あっという間に生物を絶滅させてしまう力をもっています。

 また、2009年(平成21年)11月に国際自然保護連合(IUCN)が発表したIUCNレッドリストによると、評価対象の47,662種のうち 17,285種が絶滅危惧種とされ、前年の結果よりも 363種増加していました。絶滅の危機に追いやる原因は、生息域の破壊が最も大きく、そのほか、狩猟や採取、外来種の持ち込み、水や土壌の汚染など多岐にわたります。評価を行なった哺乳類(5,490種)のうち21%、両生類(6,285種)のうち30%、鳥類(9,998種)のうち12%、爬虫類(1,677種)のうち28%、魚類(4,443種)のうち32%、植物(12,151種)のうち70%、無脊椎動物(7,615種)のうち35%が、絶滅の危機にさらされていることが分かりました。私たちは、生物がもつ未知の遺伝子という有益な財産を急速に失っていることになります。

 生物の過剰な乱獲や密猟は、生物多様性に影響を与えていますが、希少な動植物の取引に対する国際的な取り決めとしてワシントン条約(正式名:「絶滅のおそれのある野生動物の種の国際取引に関する条約」)があります。ワシントン条約は、野性動植物の特定の種が過度に国際取引に利用されることのないようにこれらの種を保護することを目的とした条約で、1975年(昭和50年)に発効し、日本は1980年(昭和55年)に加盟しました。同条約の加盟国数は、1975年(昭和50年)の18か国から平成22年2月時点で175か国へと増加してきています。

 実際に生物多様性の劣化が、各地で観察されるようになっています。野生のトラは、ベンガルトラアムールトラなど9つの亜種が知られていますが、すでに3亜種は絶滅してしまいました。世界自然保護基金WWF)の調べによると、21世紀までの100年間で生息数が10万頭から約3,400〜5,100頭まで減少したと推定されています。原因は、美しい毛皮や漢方薬の原料を目当てにした密猟、農地開発による生息域の破壊などが挙げられます。

 国内では、沖縄のサンゴの被度の減少や、東京湾の 底棲魚介類の動態の変化、尾瀬でのシカ食害による高山植物の減少などが顕著な例として挙げられます。サンゴは、海水温の上昇、オニヒトデの急増、赤土や栄養塩の流入など、さまざまなストレスにさらされています。現地調査と航空写真の解析結果からは、2003年には1980年と比べて、被度が50%以上の高被度域がわずか18%程度に減少してしまったことが分かります。

 東京湾では、30年間以上(1977年〜現在)にわたって内湾部の20定点における長期モニタリングが同じ手法で続けられており、世界的に見ても貴重な知見が蓄積されています。人間活動の影響を強く受ける沿岸海域において、底棲魚介類群衆全体の個体数、重量、種数を調査しています。これによると、東京湾では、1970年代〜1980年代後半にかけて、水質の改善などから個体数、重量ともに増加傾向を見せたものの、1980年代終わり〜1990年代にかけて、個体数、重量ともに激減し、2000年代に入ってからは、個体数は低水準のままで、魚類の重量だけが増加し、それまで普通に見られたシャコ、マコガレイ、ハタタテヌメリといった種類が減り大型魚類が増えるなど、生物相が変化したと考えられる状況になっています。原因は明らかになっていませんが、貧酸素水塊の出現、埋立てによる浅海域の減少等繁殖環境の何らかの変化等が想定され、それらの問題を解決しない限り、資源の回復は見込めないと考えられます。

 平成19年に新たに誕生した尾瀬国立公園では、1990年代半ばにニホンジカの生息が確認されてからは、湿原などの植物が食害によってかく乱されています。生息数調査の結果、20年には10年前の3.4倍となる305頭のニホンジカが生息していると確定されており、これまでニホンジカの影響を全く受けてこなかった生態系に回復不可能な影響が及ぶおそれがあります。長い歴史の中で成り立ってきた生態系が壊れてしまうことはもちろんのこと、景観や学術調査の対象とった文化的な価値が損なわれたり、景観の悪化が国立公園を探勝する利用客の減少を招き、地域経済への損失につながったりする可能性があります。

灰鰤で投稿HatenaSync