小埼沼の伝説

 うちの近くに、小埼沼という沼があります。いまは、ほとんど水は涸れ、小さな窪地が残るのみになっていますが、かつては万葉集に詠まれるほどの場所でした。

広い田畑の一角に樹木が生い茂り、その中に「武蔵小埼沼」と彫られた石碑と沼の跡形が残っています。

小埼沼には、いくつかの言い伝えがあります。例えば、「小埼沼の木を切った者が死んだ」「小埼沼には片葉の葦や片目の蛇・蛙がいる」
などなど…。

ネットで拾った興味深い奇談をひとつ…
私が小学生のころ、おふくろから聞いた内容と酷似しているのでチョイスします。

「片葉の葦」。

いまは昔、村には仲の良い夫婦が暮らしていました。
妻は「おさきさん」といって片目が盲目でしたが、
気立てがよく働き者で、初めての赤ん坊をもうけたばかりでした。

ある日のこと、おさきさんはまだ生後間もない赤ん坊を背負い、畑仕事に出掛けます。
畑は小埼沼の近くで、おさきさんは赤ん坊をあぜ道に置いて仕事を始めました。

額に汗して働き、ひと休みしようとしたときです。手の甲で汗を拭いながらふとあぜ道に視線をやると、赤ん坊の姿がありません。
おさきさんは手にしていた鎌を放り投げます。その場に駆け寄って辺りを見回しましたが、可愛い赤ん坊の姿はどこにもないのでした。

するとそのときです。
小埼沼の中ほどで、赤ん坊がプカリと浮かんでいるのが見えました。
おさきさんは慌てて沼に飛び込みます。

彼女はその不自然さに気が付かなかったのでしょう。
波が立ち、沼の水面が揺らぎます。赤ん坊の姿もゆらゆら歪むと、音もなく消えてしまいました。
おさきさんはハッと空を見上げます。
そこには大きな大鷲が木にとまっていました。その足にはおさきさんの赤ん坊が……。

沼に浮かんで見えた赤ん坊は、実は鷲にとらえられた姿を映したものだったのです。
おさきさんは「あっ」と声を上げました。
すると次の瞬間、沼の深みに足を取られます。
慌てて手足をバタつかせましたが、うまく泳ぐことができません。
悲鳴を上げるも虚しく辺りに響き渡り、ついには沼の底へと消えてしまいました。

それからというもの、小埼沼に生える葦は不思議なことにみな片葉ということです。
沼に消えていったおさきさんの一念がそうさせるのか、
そこに棲む蛇や蛙の片目も潰れているとか……。

先日、足を運んだおり、葦を確認してきました。事の真偽は…内緒にしておきます。

 私の住む行田の地には、ほかにも興味深い昔話や言い伝えがいくつかあります。
暇を見ながら覚書してゆきます。

灰鰤で投稿HatenaSync